即興型ディベート初心者へのおすすめの「最初の詰め込み」 ~もし初大会まで5日間しかないとしたら何をするか~

※元記事は「ディベート自由帳」より
今日は、即興型ディベート初心者が仮に5日後に大会に出るとしたら・・・!
と仮定して効率的であろう練習方法について書いてみました。(メインは日本語の即興型ディベートを始めようとしている人を想定していましたが、英語の即興型ディベートにしても似たようなテクニックが使える気がします。前に部で行っていた初心者である大学1年生向けにどうやって教えていたか+ak_debateゼミ等を通じてコーチしているときにどのように教えていたかを思い出して、それを5日間のメニューに凝縮してみました。)

【背景①:日本語ディベートの盛り上がり】
背景としては、最近日本語の即興型ディベートが盛り上がってきているのですが、(ak_debateも運営・審査員などでお手伝いさせていただいています)、見ていると「ルールは一定程度わかり、なんとなくスピーチもわかってきた」じゃあどうするか?というところで躓く可能性があるなと思っています。

特に、調査型(アカデミック)のスタイルを行っていた人は、せっかくHorizontal思考のレベルが高いにもかかわらず勝ちきれずに悔しい想いをしているのではないかと思っている次第です。(なお、ディベートのプレパレーションタイムに必要な3つの思考方法、通称TBH思考法に関してはこちらをご覧ください)

【背景②:英語ディベートでの「より効率的な練習方法」のニーズ】
よくどのように練習すればいいですかね、という相談が最近増えてきたのですが、
確かに体系的に学ぶことは難しく、属人化してきたことは否めませんでした。
なので、ここで仮にカリキュラムをつくるとしたらこうなのでは、というのを提示することで各大学がトレーニング方法を体系的に考えるスタートになるのでは、と思いました。

なお、下記の前提としてはあまりラウンドができない状況を想定しています。ペアでは集まれるが・・・くらいのイメージです。ラウンドができる場合はラウンドも適宜織り交ぜてください。

大まかな5日間の流れの推奨案は下記のとおりです。なお、色々な考え方もあるでしょうし、あくまで現時点の初期仮説となります。ぜひフィードバックください。

Day 1: 「大きな対立軸」を一回なぞってみる

英語の即興型ディベートの経験者がなんとか15-30分の準備時間でスピーチを組み立てられるのは、所謂「大きな対立軸」のパターン認識があるところは大きいと思っています。

色々な説明の方法はありますが、私はこれを「実社会のアドボカシー」(特定の考えを持つ人を代弁する)ととらえています。

例えば、いわゆる炭素税を導入する、というような議題になると簡略化すると環境の権利 VS 企業の権利の大きな対立となります。これは例えば、肯定側は特定の環境保護団体のNGOの代弁をすることになるかもしれませんし、否定側は企業や経済団体のトップの代弁をすることになるかもしれません。

もう一つ例を挙げると、煙草を禁止する、のような議題では簡略化すると、健康(体に悪いのだから禁止しよう) VS 自由 (個人が健康を害するのも幸せを追求する一つの方法だ) のような大きな対立になります。これはいいかえると、パターナリズム VS リベラリズム、大きな政府 VS 小さな政府を信条としている人の代弁かもしれません。

このような「大きな対立軸」を理解しておくことの良さは、「あ、この議題、似たようなことやったことある!(構図がこれと一緒だ)」という思考のショートカットができるところにあります。例えば、上記の2つを知っていると、下記のようなモーションも一見難しいものの、「あ、似たような対立軸になる」という風になります。

・先進国のエネルギー企業は、新興国においても先進国の環境基準を守るべきだ(THBT energy companies of developed countries operating in developing countries should adhere to the environmental standards of their countries of origin.)
・環境マーケットの創出を、援助の条件とする(ただし、緊急時の援助は除く)(THW make the development of eco-friendly industry a condition for receiving non-emergency aid.)
・飲み放題を禁止する(THW ban all-you-can-drink option)
・嗜好用のマリファナを合法化する(THW legalize marijuana for pleasure)

具体的にはどのように学んでいけばよいでしょうか?
日本語の資料ですと、ちょっと長いのですが、やはり今読み直しても秀逸だなというのは、この「Principle-奥田さん (ICU/早稲田大学 OB)」の資料です。(なお、奥田さんはICUの黄金時代の4枚エースの1人で、伝説ディベーターのひとりです)
http://www.jpdu.org/?page_id=23
なお、ak_debateは1年目の夏に3回くらい読みました。

英語の資料ですと、Monash大学(オーストラリアの強豪校。世界大会も何度も優勝している世界トップクラスの大学)が出している”1st Principle”に関するレジュメがおすすめです。こちら、18ページなので英語が苦手な方でもぜひチャレンジしてみてください。
http://www.monashdebaters.com/downloads/GuideToFirstPrinciples.pdf

なお、ここで出てくるDemocracyのAccountability, Representation, Participation、Criminal Justice SystemのRetribution, Protection, Deterrence, Rehabilitationは特に強豪ディベーターですらArgumentの出発点にに用いています。まずは、これらで主要な議題のなんとなくのイメージ感を持ってほしいと思っています。

Day 2: 何度かPrime Minister Speechを行ってみる

 

ak_debateはPrime Ministerこそ、ディベートの神髄だと思っています。一番短いプレパレーションタイムで、相手の話も考慮した強い話を立てるってすごく技術がいることだなと思っています。(実はこのような背景もあって、部の代表時にトライアウト(選抜)においてはじめてPrime Minister Speechによる選抜を導入したのは余談です)

まずは恐れずに、15-20分のプレパレーション時間を用いて、実際に大会のスピーチ時間(多くの場合は7分)のスピーチをしてみてください。議題は色々なところがまとめていますが、英語即興型ですと、UTDS(http://resources.tokyodebate.org/debate-motion/motions/)がよくまとまっています。(日本語即興型となるとCDSの過去ページになるかと思いますが、そちらもプール(絶対数)としてはまだ少ないため、英語即興型の論題を使用することをおすすめしています)

具体的には、アジア大会のような国際大会ですと難易度が高すぎるかと思いますので、まず総じてモーションの難易度が低めの傾向にあるNA Styleのモーションがいいと思います。(こちらは、多くの大学で導入編として使用されているため、大会も1-2年生向けのが多いからです。なお、UTDSのモーションですとESUJモーションのみ1年生大会ではありません)。

このプロセスの目的は3つあります。

1つ目に、Day 1で行った「大きな対立軸」のストック/アップデートを行うことです。色々なモーションをやりながら、「あ、これはこの対立軸だな」「あ、これはちょっと違って、動物の権利対人間の権利だな」なるほど、という風にストックしていきます。頭がいい人は覚えられると思うのですが、ak_debateのように要領が悪い場合はディベートノートに書きます(関連する記事はこちらです)要は、ノートにテーマ(ないし対立軸)ごとにストックしていくイメージです。

次に、「スピーチ(アウトプット)」に慣れることです。残念ながらディベートは現段階ではアウトプットのみで評価されます。「いいアイデアがあったのに・・・」という人は良くいますが(事実、私もパートナー運がよく、だいたいパートナーに助けられています)とはいえジャッジはそこまでわからずスピーチを評価します。口を回す慣れもそうですし、最終的に目指す「ゴール」を明確化する意図もあります。

3つ目に、「スピーチでできていること、足りないところ」を明確化することにあります。できればフィードバックがあるほうがベターなのですが、ない場合は自分で録音して聞き直すことになるかと思います。例えば、「関係のある話はできる」「可愛そうな描写ができる」「具体性がない」「そもそも早くてわからない」のような現状分析(アセスメント)になるかもしれません。

なお、スピーチの型ですが、教科書などに書いていない場合、Triple A、AREA等を用いるのが良いと思います。(Triple Aに関する記事はこちら。)時間がない場合はAREAにフォーカスしましょう。Assertion, Reasoning, Example, Assertionの略で、主張・理由・例・主張です。これをStatus Quo(現状)、After Plan(政策後)であったり、our model(私たちのパラダイム・世界観)・their model(相手側のパラダイム・世界観)で並列に話します。つまり、

「私たちのパラダイムでは、XXXが起こります(A)。理由はYつあって。なぜなら、XXXだから・・・そしてXXXだから・・・です(R)。例えば、XXXです(E)。その結果、XXXが起こります(A)。一方、相手のパラダイムでは・・・」という風に話します。これは、本当にベーシックな型で、当然色々な批判はあるのですが、守破離でいう「守」では最適だと思っています。なぜかというと、①スピーチをひとまず結論からわかりやすく言えるので一定程度ジャッジに伝わりやすくなるし、②理由をかならずつけ、かつ相手のパラダイムとも絶対に比較する、③具体例によって議論を地に足をつける、癖をつけてくれるからです。

Day 3: プレパレーションの初期戦略を立案する

 

私は即興型ディベートのパフォーマンスの8割くらいはプレパレーション(準備時間)で決まると思っています。したがって、プレパレーションのコーチングは現役時代からよく行っており、選手のパフォーマンスが面白いほど伸びる様子を何度も目にしてきました。なのでここの戦略は肝となります。

色々な型があると思いますし、本格的な戦略立案には私は3-4回のセッションを頂戴することが多いのですが、いったん個人レベルで行うこととしてお勧めしているのは、まずあなたにとって最適の「時間の使い方」のルールを決めることです。例えば、

・最初の5分は個人でブレインストーミング(広く考える)
・次の5分はアイデアの共有(アイデアの発散)
・次の2-3分は勝ちどころの確認・アイデアの収束/取捨選択
・残りの時間は具体的なスピーチづくり

のようになるかと思います。
その際活きてくるのはak_debateが提唱している「TBH思考法」となります。(詳しい解説はこちら)要は、Top-Down、Bottom-Up、Horizontalで考えるというところになります。なお、経験則的に、コンスタントにブレイク(決勝トーナメントに進出)したり個人賞を受賞したりする人は最低2つの思考法を持っていることが多く、優勝するチームや圧倒的な個人は3つの思考法を使いこなしている傾向にあります。初心者の場合はまず、足元の戦略として当然全部を頑張るのは中長期的に行ってほしいのですが、まずは1つ武器となりそうな思考法を軸にすることを意識しましょう。例えば、私の部ではまずは日本人の多くが得意な傾向にあるBottom-Upからお勧めしています。これは実は戦略的な意味もあって、Bottom-Upで考えることは具体的になりやすいというところがあるので、最初の1st PrincipleがややTop-Down/Horizontalの初期インプットになると想定すると、Bottom-Upによって補完するという一定程度「完成させる」意味があります。さらには、ジャッジとしても具体的な話はやはり取りやすく、勝ちに直結する傾向にあります。

3日目の目的としては、2日目で行った最後のアウトプットを意識しながら、さらに「大きな対立軸」をストックしながら、実際そのアウトプットに向けた「プロセス」を精緻化していくという流れです。ある種、1日目でインプット、3日目でアウトプットを、2日目でプロセスを強化しているというデザインになっています。

なお、このプロセスをやる際に、ぜひディベートノートはアップデートしてください。

Day 4:試合的な環境に身を置く

3日間ストイックにやっていると、なんとなくの感覚はつかめてきます。ここで重要になるのはとはいえ、やや「机上」で行っているため、「実践」が薄い可能性が高いというところです。具体的な試合になると、様々なことが起こります。分かりやすいのは反論ですね。相手の話への対応を考えないといけなくなるのですが、これはなかなか予想がつかなかったりもします。特に、2nd Speaker以降となればなおさらです。

(万が一BP Style等に出るというのであれば、できるだけClosing、特に一番難しいと言われているClosing Governmentをやることをおすすめしています)

もちろん試合ができればベストになります。具体的には、どこかの大学にお邪魔することになるでしょう。意外とFacebookで頼むとOKしてくれるパターンがあります。または練習会も場合によっては開催されています。また、一部の大学ですとSkypeでラウンドをすることもあります。ak_debateも例えば九州のディベートを東京でジャッジしたことがあります。海外だと、マカオ VS シンガポールの試合がフィリピンのジャッジによってSkypeでラウンドとして成立していることもあったと思います。なのでふんだんにテクノロジーも使ってみてください。

試合ができない場合は、どのようにするかというといくつかのパターンがあります。まず2人以上いる場合であれば、途中までででもいいのでラウンドをしてみてください。いわゆる「アイアンマン」と言われる1vs1のディベートもak_debateもたくさんやりました。特に、私の代は部員の数が私を含めて6人だったので、毎回6人くれば良いのですが、最悪2人しかおらず1vs1で練習したこともあります。また、ストイックに負けず嫌いなak_debateは、先代部長に頼み込んで1vs1でAsian Style(3回スピーチを行う)もやっていただきました。今思うと本当先輩には頭があがりません。

それも難しい場合は、英語即興型の場合は、ぜひ音源を聞いてみてそれに反論・立論することを考えてみてください。JPDUのYouTube等、多くの音源がレベル別にあると思いますので、それを聞いてLOだったとしたら、という練習は最低限出来ると思います。また、MGをやるというということもできなくはないです。(ak_debateも一時期やっていました) 日本語即興型の場合はリソースが今の段階では少ないですが中長期的にはできるようになるかもしれません。

ここでのポイントは、実際の試合になって改めて必要になったこと、工夫できることを洗い出すことになります。もしかしたらプレパ戦略がアップデートされるかもしれまんせんし、それ以外にも気を付けるポイントというのが出てくるかもしれません。

なお、このプロセスをやる際に、ぜひディベートノートはアップデートしてください。色々見えてくると思います。

Day 5:復習して、個別的な練習を行い、最後はコンディションを最適化する

いよいよ最終日となります。ここで行う必要があるのは、「復習」です。ここから詰め込もうとしてもなかなか自分のものにならないので、諦めましょう。割り切ったほうが効率的です。

行うことはまずディベートノートを読み返しましょう。どういうことができて、どういう工夫をすればよいのかというのを改めて見返します。ここでお勧めなのは、ディベートノートの1ページを使って、「To-Doリスト」をつくることです。

例えば、ak_debateでは、
【プレパ】
・Bottom-Upだけではなく、Horizontalにも考える(=相手が言ってくることは何か?)
・必ず具体的に話す(どうかわいそうなの?どう嬉しいの?)
【スピーチ】
・Status Quo, After Plan, ImpactのAREAを徹底する
・反論は短くする

のようなチェックリストをもって大会に臨んだことがあります。あまり多くても大変なので、シンプルに減らすことがポイントです。

また、Day3につくったプレパレーションの型ももう一回確認します。改めてこの時間配分で明日もがんばろう、と思うわけです。

そして最終日なので、何かに特化した練習だけ少しだけ行います。例えばやっぱりスピーチが不安なのであればスピ練でしょうし、プレパに不安があるならプレパ、その中でも例えば特定の議題が不安なら特定の議題をやることもあるかもしれません。あくまで、4日間の結果を受けて集中的に練習するわけです。

そして最後は・・・大事ですが寝ることです。コンディションを最大化しましょう。さっさと携帯を閉じて布団でぐっすり寝るのが結局はいいことです。あとは「楽しもう」とかポジティブなイメージをもったりすることも、ak_debateは個人的にはやっています。

いかがでしたでしょうか。
もし、5日間しかないとしたら、と考えてみました。もしそのような相談がきたとしたら、ak_debateは過去の経験上、上記のような時間の使い方をお勧めします。
質問などございましたら、いつでもお気軽にご連絡ください!

ディベート甲子園・HEnDA等の調査型ディベート経験者が即興ディベートを楽しむコツ3つ

この記事はディベート甲子園やHEnDA、あるいは大学でNAFA等の「アカデミックディベート」を経験した人を対象に、そうした人が「パーラメンタリーディベート」を楽しむコツを紹介するものです。

(この「アカデミックディベート」「パーラメンタリースタイル」と呼び方が、その理解をする上であまり適切でないので、私達が所属するCDSではそれぞれ「調査型ディベート」「即興型ディベート」と呼んでいます。)

断っておくと、私自身は調査型ディベートでも即興型ディベートでも、同じ代で最も強かったという訳ではありません。ただ、大学時代にその両方のスタイルを経験し、その両方で一定のレベルの大会で複数のブレイク(決勝トーナメント進出)やスピーカープライズを取ったという人もあまり多くありませんので、その経験を踏まえてのコツを簡単に紹介させて頂ければと思います。(より詳しく知りたい人はCDSに問い合わせて下さい)

まず前提として、調査型ディベートを経験した人が即興ディベートを見たり、実際にやってみると、よりパブリックスピーチに近いプレゼンテーションに格好良さ(あるいはカッコつけ感)を感じつつも「なんとなくふわっとした話をしている(ロジックが甘い)」「判定理由に納得できない」「証拠資料もないのにどうやってミクロに決着を付けるのか」等の違和感を感じるのではないかと思います。

一言で言うと、それらは全て ジャッジの意思決定プロセスの違い に寄るものです。
すごくざっくり言うと、調査型は「論題知識は無いが、意思決定の訓練を積んだプロ」、即興型は「大学卒程度の教養をもつ一般人」を想定しています。調査型の審判は日本の裁判における裁判官のように、即興型はParliamentaryの名の通り議会を見守る有権者に例えられることがあります。

優劣や合ってる間違っているではなく、想定しているジャッジ像が違う故に勝敗の決め方(ディシジョンメイキングプロセス)が異なり、結果としてディベーターのスピーチの内容にも相違点が出てきます。

具体的な例はスライドの中に書いてありますが、大きく3つあります。

1:ジャーゴン(ディベート特有の言葉遣い)を使わず、普通の言葉で語る
例;「解決性がありません」→「〜をしても〜は解決されません」

2:マクロの構造を、インパクト起点に変える
例:「プランによって〜という問題が起こります。この問題は深刻です。
なぜなら〜という権利の侵害にあたるからです。」

「我々は〜という権利はを守るべきであるというスタンスを取ります。
その上で、プランは〜という権利を侵害する、〜という問題を引き起こします。」

3:論理的なわかりやすさだけでなく感情的な「受け入れやすさ」をスピーチに取り入れる
例;「Jobless commit suicide」 → 「失業者は家族を経済的に支えるというような、自分の存在意義を感じられなくなり〜」

調査型で一定の経験がある人であれば、これらの点ができるようになるだけで、試合で勝てるかは別としてと即興型ディベートを楽しむレベルまではすぐにいけるのではないかと思います。できれば経験者と何試合かやってみると良いのではと思います。通常3試合やるとだんだん理解ができてきて、20試合~30試合やるとかなり頭の中を切り替えられるようになります。